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2018年6月24日 (日)

夢の途中(scene 2)

「今日はどういったお祭りなんですか?」
と正美は行列をみつめている中年の女性に尋ねてみた。
女性は首だけをこちらに向け無表情のまま「弔いのまつりよ」と静かに言い、再び行列のほうへ向いた。
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拍子抜けするほどに取引先との打ち合わせが早く終わってしまった。
会社が用意してくれた新幹線の時刻までにまだ6時間もあった。
滅多に来る場所でもないし、あてもないが路線バスにでも乗ってみようかと、正美の冒険心が呟いた。暑くもなく寒くもなく、散策をするにはちょうどよい季節というのも正美の足取りを軽くさせた。
取引先の会社を出てしばらく歩くとバス停があり、品の良い着物姿の婦人がバスを待っていた。ほどなくして濃いミドリ色のバスがゆっくりとやってきて、婦人に続いて乗り込んだ。上品な白檀の香りが鼻をかすめた。
乗客は昌美と夫人の二人きりで、婦人は4つ目で降りて行った。
どこで下車しようかと正美は窓の外に流れていく景色をぼんやり眺めていた。
どこか落ち着けそうな店でゆっくり昼食をしてから散歩をしてみようと思い、直感を頼りに6つ目の停留所に降り立った。
店を探しながら山を背に歩く途中、この賑やかな行列に遭遇したのだった。
いや、正確には「賑やか」だと感じたのはほんの僅かな瞬間だった。
錦の布で飾られた神輿の上には花嫁衣装のような打掛を着た若く美しい女性が座っている。
だがその表情は明らかに悲しそうなのだ。
見た者の心を一瞬で分厚い雨雲が覆ってしまうほどに。
同じような神輿がその後に3台続いた。
先頭の女性ほど悲しそうな表情では無いが、複雑な表情を隠すかのようにぎこちない笑みを口元に浮かべて。
3台目の女性が正美のすぐ近くを通り過ぎようとしたとき背中にザワザワとした感覚があり全身を鳥肌がおそった。
祭りに音楽は付き物のはずなのにこの行列には音がない。
唯一の音といえば、低く不気味な太鼓の音。
その太鼓の音に隠れるように、行列を見守る人々が口元を隠しながらヒソヒソと話す中にイケニエというコトバ。。。
正美はここにいるのが怖くなり、空腹も忘れ先ほど降りたバス停へ向かって歩き始めた。
カラダじゅうが震えている。
早足で歩いているのに全く進まない。
動悸が激しい。
ここは一体どこだ?
正美は一心に歩いた。恐ろしい何かから逃げるかのように一度も振り返らずに。
気がつくと降車したバス停を2つも通り越し歩いてきたようだ。
正美はスーツのポケットからハンカチを取り出し、額の汗を拭った。
早足で歩いた為の汗なのか冷や汗なのか。スーツまで汗が滲んでいる。
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5分ほどするとバスはやって来た。
車内は高校生たちで賑やかだった。
「今日の数学、ごっつ難しかったやん?」という会話が耳に入り、正美は現実に戻ってきたのだとほっとした。
正美は途中少しまどろんだようだが、バスは何事もなかったかのように在来線の駅ロータリーに到着した。
腕時計を見ると午後の4時半を少し過ぎていた。
柔らかな夕方の陽射しがある。
正美はバスを降りてから路線図をしげしげと眺めた。
取引先のバス停の名前をスマートフォンのメモで確認してみた。西町5丁目。
西町5丁目から数えて5つ目の「西高校前」は終点だった。
 
                                              to be continued......

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